【現代インド・南アジア次世代研究者合宿 受講生研究発表】発表者:丹羽充

現代インド・南アジア次世代研究者合宿

氏名:丹羽充(一橋大学大学院)
発表タイトル:「「世俗国家」の中で立ち上げられる宗教政党―ネパールにおける民主化および世俗化とプロテスタンティズムについて」

ネパールでは1990年に複数政党制民主主義が、続いて2007年に「世俗国家」化が実現された。「世俗国家」は、一般に「宗教の公的領域への不介入」と理解されよう。だが、「世俗国家」となったネパールにおいてプロテスタントの一部は、政治への参入を声高に叫ぶのみならず、遂にはプロテスタンティズムの教理に基づいた政党を立ち上げようと試みている。そこで本発表では、「世俗国家」においてプロテスタントによる政党の立ち上げがどのような論理によって正当化されているのか、しかし、それが「世俗国家」という縛りからどのような影響を被っているのかという点を検討した。

政党の立ち上げに積極的なプロテスタントたちからは、次のような正当化の論理が確認された。それは次の3つに大別できる。まず、プロテスタンティズムはそもそも宗教dharmaではないために、宗教に基づく政党の登記を禁止した(より厳密には、宗教に基づいてネパール国民が成員となることを拒む政党の登記を禁止した)暫定憲法に抵触しないというものである。次に、「世俗国家」化したにも関わらずヒンドゥー教や仏教が依然として国家による優遇を受けているため、暫定憲法に背きつつも、プロテスタント政党を立ち上げ自らの利権を確保しなければならないという論理である。そして最後に、暫定憲法の規定について知らない者から聞かれたのが、そもそも「世俗国家」化とはヒンドゥー教が国教ではなくなったということであり、したがってあらゆる宗教が政治に参入しても良いという論理である。このように解釈されることによって「世俗国家」化は、むしろ宗教(プロテスタンティズム)の政治への参入を招いているのである。

次に、実際に立ち上げ途上にあるプロテスタント政党に着目し、「世俗国家」という縛りがそれに与える影響について検討した。政党を立ち上げるためには、暫定憲法の規定に従い、政党名および(作成中の)マニフェストからプロテスタンティズムの用語を徹底的に排除しなければならず、結果としてこの政党はプロテスタント政党としての特徴を失ってしまう。だがプロテスタントたちには、プロテスタントのネットワークを用いて、非公式に、この政党がプロテスタント政党であることを周知すれば良い。またプロテスタントの特徴を失うことには、他宗教の人々を動員していくことを可能にするという利点もあり、この政党はそれをも最大限に生かそうと試みているのであった。

こうした事例を切り口に、「民主主義」や「世俗国家」といった、いわゆる「自由化」を促進する諸概念が、どのような新たな実践を立ち上げているのかを議論することが本発表の目的であった。

数多くの貴重な批判およびコメントをいただいた。その中でも、今後の研究の方向性を示してくれるという点で、特に次のものを取り上げておきたい。すなわち、複数政党制が解禁された1990年以降、ネパールでは政党が乱立するようになっているが、そうした他の政党との比較のうちに、特に今回、発表者が紹介した事例からどのようなことが言えるのかという批判である。これについては今後、資料の分析を通して、一定の見解を提示できるよう調査しなければならない。

»「現代インド・南アジア次世代研究者合宿」2012

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