【現代インド・南アジア次世代研究者合宿 受講生研究発表】発表者:石坂晋哉

現代インド・南アジア次世代研究者合宿

氏名:石坂晋哉(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科/人間文化研究機構)
発表タイトル:「インド農村社会の変化―Behind Mud Wallsをめぐって」

本発表の目的は、インドの変貌をいかに解くかをめぐり、自身のフィールドを長期にわたり眺めてきた経験や実感をもたない次世代研究者が、できるだけ自由に、しかし具体的事例にもとづき実質的に議論を行うためのひとつの土台となるような農村社会の歴史的変化の事例分析を紹介し、論点を整理することであった。ワイザー夫妻とワドリー氏によって書かれた『泥壁の向こう側―北インドのある農村の75年間(Behind Mud Walls: Seventy-five Years in a North Indian Village)』をとりあげて検討した。『泥壁の向こう側』の著者たちによると、1930年時点でのKarimpur村の人びとの生活と社会関係を規定していたのは、バラモンによる強固な支配の構造と、カースト(ジャーティ)に応じて世帯間でサービスの授受を行うジャジマーニー制の存在であった。1960年の段階ではほとんど変化がみられなかったジャジマーニー制は、1984年までには完全に崩壊することとなった。著者たちによると、変化を引き起こしてきたのは、品種改良を中心とした農業技術の改良と農業生産性の向上であった。とりわけ状況を大きく変えた直接の引き金は、1970年代から1980年代初頭にかけて進められた管井戸の購入・設置であった。しかし女性の従属状況などは1998年時点でもまったく解決していない。ワドリー氏は、Karimpur村にみられた変化の構図は、時期は異なるにしてもインドの他の多くの地域と共通するものだったと考えている。

定点調査による長期変化把捉によって、人びとの生活や社会関係というレベルからみた変貌の姿を描くことに関して、次のような点に注意すべきであろう。(1)住民や調査者の実感が基盤になっていること。(2)多数者や非サバルタンや平均的な者にとっての変貌の姿のみが前面に出過ぎないように、複声的な描き方が必要であること。(3)典型的な事例(例:平野部農村)への過度の注目により、多様性を看過してはならないこと(=比較が重要であること)。(4)世界レベル、国レベル、州レベルからみた変貌の姿と補完的に理解される必要があること。(5)いかに変貌したかという理解自体も変化すること。

討論では、本発表が「「グローバル化」から見える世界、見えない世界」パネルで行われたことを前提として、とりわけ緑の革命を「グローバル化」という概念で説明できるかどうかについて議論が集中した。発表者自身の意図としては、ジャジマーニー制という「伝統的」な社会関係・構造の崩壊という事象に注目するならば、一般的に1990年代(もしくは1980年代)を画期とみなす「グローバル化」という概念だけからはインドの変化を説明しきれないのではないかという問題提起をしたかったのだが、「グローバル化」という語自体をどこまで広く解釈して使うべきかについてもっと突き詰めて検討すべき余地が残された。

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