【現代インド・南アジア次世代研究者合宿 受講生研究発表】発表者:中溝和弥

現代インド・南アジア次世代研究者合宿

氏名:中溝和弥(京都大学/NIHU) 発表タイトル:「移民論の現在」

ヒト、モノ、カネ、そして情報のかつてない規模での移動をグローバル化の定義とするならば、ヒトの移動、そのなかでも移民が重要な現象であることは明らかだろう。世界の変化を捉える枠組みとしてグローバル化が着目され始めた1990年代以前より、南アジア世界は国外・国内の大規模なヒトの移動を経験しており、その意味で移民は今に始まった話ではない。とはいえ、1990年代以降、移動の規模が拡大したことは確かである。それでは、この移民が現代インド世界をどのように変えているのか。この問題を考える土台を提供することが、本報告の目的である。 移民とは、まさに人々が既存の境界を跨ぐ現象である。これまで自分たちが生活していた村や町といった生活空間を離れ、極端な場合には全く異なる政治・経済・社会・文化的環境に身を置くことになる。そこで経験するのは、自らの国籍や出身地、さらには民族・人種・宗教など生得的なアイデンティティに起因する厳しい差別であり、酷い場合には迫害の対象となる。自らの帰属意識を強く認識する機会が増えることで、いわゆるディアスポラ・ナショナリズムと呼ばれる現象も起こることになる。 移民を受け入れる社会からすれば、異質の行動規範を備える存在と共生を強いられることになる。これまで「豊かで安全だった」自分たちの社会が、彼らによって損なわれてしまうのではないかという危惧は、移民排斥運動として具体化し、これまで自分たちの社会が建前としてきた民主主義の理念そのものを大きく揺さぶる結果となる。 揺さぶられるのは、移民を受け入れる社会だけではない。移民を送り出す社会も同様に変化を経験する。貴重な労働力の流出は、それまでの農村の経済構造にとって打撃となり、移民が経済力をつけて戻ってきた場合には、伝統的な権力者の地位も揺さぶることになる。伝統的な農村社会の変化は、社会の領域にとどまらず政治の領域における変化も生み出し、インド社会全体の民主化を生み出す可能性を秘めている。 このように、移民とこれに伴う現象を分析することは、国民国家や地域社会といった境界の意味、これに関連するナショナリズムの問題、さらには民主主義の深化など社会科学の重要な課題を問うことに直結している。本発表においては、移民が提起する社会科学上の論点を整理して、移民論を検討する意義について論じたい。

»「現代インド・南アジア次世代研究者合宿」2011

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