【現代インド・南アジア次世代研究者合宿 受講生研究発表】発表者:宇根義己

現代インド・南アジア次世代研究者合宿

氏名:宇根義己(広島大学現代インド研究センター/人間文化研究機構)
発表タイトル:「工業化と地域社会」

インド経済は、1990年代初頭の経済自由化政策導入後、急速に発展を成し遂げてきた。しかし、経済発展や工業化は国内で均等的にみられたわけではない。同国を表現する言葉として「多様性」が頻繁に挙げられるように、経済発展についても「多様性」を反映した地域的差異が生じている。そのため、地域の実情を州や県、地域といったより様々なスケールで捉えること、そしてそれをインド全体の動きの中で位置付けていくことが重要である。そこで本発表は、工業化の進展に伴って地域にどのようなインパクトがみられているのかについて分析することを目的とした。その際、論点を明確にするため工業団地開発に的を絞り、主に企業立地の実態と開発に伴う地域社会の変容の実態の2点を明らかにした。発表では、報告者の調査によるヒマーチャル・プラデーシュ州バッディ地域の事例のほか、既存研究によるマディヤ・プラデーシュ州インドール市郊外の工業団地およびデリー首都圏郊外の事例を取り上げた。

発表の結論部分では、まとめとして主に以下の3点を指摘した。①中央および州政府が工業化の遅れている州・地域での工業団地開発を推進し、さらに団地へ製造業を立地誘導する方策がとられた。これが一定の成功を収めている。一方、大都市周辺での工業団地開発も進められている。②製造業者の従業員特性から、スタッフ以上とワーカーとの間に、社会的・経済的に大きな差のあることが確認された。③工業団地周辺の地域社会の変容については、大都市郊外と地方都市郊外とでは差異がみられた。例えば、前者では兼業化の進展や農業労働者不足がみられたのに対し、後者ではいまだ農業を中心とした経済活動が展開されている。

発表に対する質疑では、A.分析地域の3地点を選定した理由は何か(根本氏)、B.工業団地開発においては土地買収などにおいて政治的なプロセスを経ておりその点も重要ではないか(北川氏)、C.結論部分の②や③(上記)は単純化しすぎではないか(田辺先生)など、そして総合討論では、D.制度がより重要であるためもっと制度に着目すべきではないか(上田氏)といった指摘を頂いた。A.については、税制恩典の優遇地域、大都市郊外、地方都市郊外という区分から3地域を取り上げた。B、Dは今後の課題とした。Cについては報告者も同意するが、地方と大都市とで一定の地域的差異がみられることは確かであると認識している。

発表について内省すると、「工業化と地域社会」というテーマを設定したが、特に「地域社会」についての議論を深められなかった。そのため、「工業化」に伴って「地域社会」がどのように変容しているのかといった学際的なテーマについての議論を引き起こすことができなかった。ただ、インド経済・社会の実態を地域的・空間的に捉える視点が重要であることについては、ある程度参加者に示しえたのではないかと思っている。

»「現代インド・南アジア次世代研究者合宿」2010

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