【現代インド・南アジア次世代研究者合宿 パネルのまとめ】パネル4:「ジェンダー」 

現代インド・南アジア次世代研究者合宿

報告者氏名:志田泰盛(京都大学次世代研究者育成センター)

本パネルでは、ジェンダーをテーマに二人の発表があった。

まず一人目の國弘氏の発表は、グジャラート州のヒジュラにおけるマスキュラニティ(男性性/男らしさ)について、実地調査に基づいて描出・分析したものある。ナンダ[1999]を始めとする先行研究は、去勢の慣習を持つヒジュラを「男性でも女性でもない第3のジェンダー」とラベル化する傾向がある。このラベル化は、ヒジュラを比較可能なユニットとして切り取る一方で、ヒジュラが持つ男性性・女性性といった側面や土着の習俗との関係性といった側面を捨象しがちである。以上の問題に対して、発表者はヒジュラの去勢に〈体液漏出抑制〉〈身体閉鎖〉〈禁欲・苦行〉といった意味を読み取り、ひいてはマスキュラニティーの増強という側面を描出した。

質疑応答においては、田辺先生より今後の研究の展開の方向として以下のような提案があった。まず、去勢が持つマスキュラニティ―という逆説的意味について、すなわち、インドでは男性性の代表的象徴として起立するシヴァリンガが挙げられるが、去勢自体はその対極にあるという点について、さらには、ヒジュラの女性性の由来についての分析も俟たれるという旨である。

二人目の小林氏の発表は、ケーララ州におけるダウリー(結婚持参金)問題を、現地の聞き取り調査を中心に分析したものである。法律上は禁止されているものの、現在でもダウリーの慣習を根強く残す地域・コミュニティーは多い。多くのコミュニティが母系制度下にあったケーララにおいてもダウリーが慣習化し、拡大傾向にある背景には、母系制度の廃止、農地改革による土地の分配、グローバル化に伴う消費主義の高揚などといった社会の変容があった。さらに、ガルフ移民に代表されるダウリーのための州外労働などが、この問題に負のフィードバックをもたらしている可能性を指摘した。また、ダウリー自体はタブー視されている側面も強く、慣習を「隠す」傾向の強いコミュニティーでは、当人ではなくブローカー等への間接的聞き取り調査が有効であるが、どこまで真相に近づけるか、という方法論的問題も報告した。

質疑応答においては、ダウリー要求の背景に様々な動機が潜在している可能性についての根本氏からの質問に対して、発表者は、男性と女性それぞれに階層性、多様性があり、男女を単純に二項対立的に捉えることは避けるべきであり、例えばダウリー拡大に女性も加担している現況も提示した。その他、相対的に離婚に寛容なムスリム社会の特徴などについて小野氏から指摘があった。

 

報告者氏名:北川将之(神戸女学院大学文学部)

報告者氏名:國弘暁子(群馬県立女子大学)
報告タイトル:「マスキュリニティと現世放棄:去勢儀礼を通過した現世放棄者たちのジェンダーに関する考察」

本報告は、「第三のジェンダー」と呼ばれるヒジュラのジェンダーに関して、男性性(マスキュリニティ)の視点からの理論的検討とその具体的事例の考察の順に話が進められた。報告の冒頭では、セレナ・ナンダの研究(1990)がアジアと西洋との比較可能なものを抽出することに主眼が置かれていたが、本報告はナンダの研究で捨象されてきた部分、すなわち、西洋とは比較不可能なインドに特有な土着の思想との結びつきに焦点をあてて考察することを目的としていることが述べられた。

男性性の視点からの理論的検討では、幾つかの先行研究が紹介された。女性的なアジアの男性像(Osella and Osella, 2006)、精子喪失への不安(Carstairs, 1957)、精子と聖なる力の関係(Veena Das, 1979)などの論点を整理した上で、サンニヤーシ(現世放棄の巡礼者)がホモソーシャルな空間において結婚せず精子を保持することには、男性としての自己形成という意味合いだけでなく、禁欲によって聖なる力を得るという意義があることが述べられた。具体的事例の考察では、グジャラート州での現地調査の写真と映像を用いて、ヒジュラの日常生活や寺院や街での活動の様子が紹介された。

質疑応答では、性器切除と現世放棄との関係についてマスキュリニティの視点から更なる考察が必要ではないかという意見や、シヴァを現世放棄のモデルとして解釈する余地もあるのではないかという指摘がなされた。

報告者:小林磨理恵(東京外国語大学大学院博士前期課程)
報告タイトル:「現代ケーララにおける結婚持参金(ダウリー)問題」

本報告では、かつて母系制であったケーララ社会が近年変容しつつあるなかでダウリーが広まってきた点に着目し、母系制の崩壊とダウリーの慣習化についての連関が指摘された。旧母系制コミュニティの事例として、マラバール地域のナーヤルが取り上げられ、現地での聞き取り調査結果が紹介された。調査結果によると、1969年の土地改革で農地の再分配が進められた結果、土地がダウリーとして交換されるようになったことが、ダウリーの慣習化を加速させた。また、湾岸諸国への出稼ぎが消費文化をケーララにもたらし、ダウリーの高額化を促したことが論じられた。

質疑応答では、報告の調査結果が農村のデータであるのに対して都市部では異なる展開があったのではないか、あるいは、母系制の解体のメカニズムや時期についてコミュニティ毎に差異があるのではないかという指摘がなされた。

 

»「現代インド・南アジア次世代研究者合宿」2010

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