【現代インド・南アジア次世代研究者合宿 受講生研究発表】発表者:中川加奈子

現代インド・南アジア次世代研究者合宿

氏名:中川加奈子(関西学院大学大学院社会学研究科)
発表タイトル:「ネパールの民主化・近代化と新たな共同性の創出―『肉売りカースト』の生活実践から」

ネパールは、大規模な民主化運動を経て2008年5月、ヒンドゥー教を国教とする立憲君主国から世俗主義の連邦民主共和国に移行し、国家体制が大きく変化している。また、グローバル化に伴い市場経済に伝統的な経済システムが包摂されつつあり、急速に生活の近代化が進んでいる。本報告では、首都カトマンズの先住民である『ネワール』のカーストに基づいた分業のなかで主に家畜の屠殺解体・食肉販売を職業としてきた『カドギ(Khadgi)』カーストに焦点を当て、カドギが日常的な商慣行における他カーストとの交渉を通じて、肉食に関する価値規範に変化をもたらしている様相を明らかにした。具体的には、ネパールの食肉産業と食肉政策の歴史的変遷と特徴を整理し、食肉市場における商慣行を、主に屠場、家畜市場、肉屋の店頭でのカースト間の日常的なやりとりに注目して報告した。最後に、日常的な商慣行を介したカースト間関係の変容が示す展望についての考察を加えた。

質疑応答では、家畜の屠殺の方法・技法について(儀礼用と商売用での違い等)、政府が推進する食肉産業近代化事業に対するフィールドでの反応、他の差別問題に関する運動の「やり方」との類似点等についての照会を受けた。続いて、今後、事例を解釈し論を立てていくにあたっての大きなテーマや方向性の確認として、ここでのカースト間関係の変容の根底には、近代化があるという理解でいいのかというコメントを受けた。つまり、市場経済が人々の食生活を変えそれが社会関係までを変えており、そのなかで、たとえば事例として報告したムスリムがヒンドゥーの結婚式に参加するということが起こっているのであり、根底には自由と平等という価値が浸透してきたと考えてもよいのかという質問であり、これに対し根底に大きくは近代化があるという理解でよいとお答えした。同様に、本事例の理論的位置づけに関して、近代化にともない自由化されて個人裁量が増えたと説明できる部分がある一方で、カースト間関係と相まって動いている部分もみられるのであり、これを「市場の動きが社会文化領域でのカースト秩序を凌駕している」としてしまうと、事例がもつ示唆を捨象してしまうことにならないかというご指摘をうけた。また、民主化とこの事例がどうつながってくるのかについての踏み込んだ考察の必要性も指摘いただいた。フロアでは十分にお応えできなかったが、今後、本事例の理論的位置づけを考えていくにあたって、個別カーストの地位向上運動という視点だけでなく、政治、経済、社会・文化領域を横断してカースト間関係が変化することでの民主化・近代化の動きとして見ていく必要があると考えており、そのためには、引き続き、日常的な慣行・実践などに注目しそれが示す地平について考察を深めていきたいと考えている。最後になったが、報告者は、長期フィールドワークを終えて、今後、データの分析、解釈を進めていく段階にあり、今回の発表やその後の議論において、中長期的な課題や問いをたくさん発見させていただいたことは非常に有益であった。改めて感謝申し上げる。

»「現代インド・南アジア次世代研究者合宿」2010

パーマリンクをブックマーク

コメントは受け付けていません。