【現代インド・南アジアセミナー 受講生による講義記録】講師:臼田雅之

現代インド・南アジアセミナー

講師氏名:臼田雅之「近世から近代へ―19世紀ベンガルの社会と文化」
報告者氏名:吉澤加奈子(京都大学)

講義では、インド史の異なる2つの解釈を架橋する新たな時代区分が提示された。それは、インド大反乱以前を分水嶺として、それ以前の東インド会社による支配期を近世、大反乱以降を近代とする区分である。臼田先生は東インド会社の支配を近世的反動ととらえ、18世紀再検討論における植民地支配の免罪符的要素の再解釈を促すことによって、同じく1980年代から論じられてきたサバルタン・スタディーズとの対立点を解消できる可能性について論じられた。

 

時代区分論が今世紀に入り再興している現況についても触れられ、グローバル化と関連づけて研究の方向性が示された。現在の区分論は世界を均質化する流れに逆らう形で多様な時間観念が強調され、決定的な指標がない状況にあり、より柔軟な時代区分の確立が課題となるという。この課題に対し、先生はロトマンの「前景化」と「後景化」という文化記号学の概念を歴史の時代区分へと援用されている。各時代を決定するのは「前景化」された要素であるが、他の時代の要素も「後景化」され同時に存在するという。これにより、歴史空間における多様性に注意を払いつつ、その変遷を動的に理解することが可能となるのである。

 

次いで、インドにおける近世から近代への変遷が大反乱をもって区分される根拠をインド史に即して3点述べられた。1点目は大反乱以降、英国が支配機構の再編成を行い、1877年には帝国憲法が発布されたことにより、この時期に近代国家としての体裁が整ったとみることができるという点である。2点目は、民族運動の成立、展開とそれにともなう法制上の改革により、インドが自治を手にしていったという点である。また、ベンガルにおける小作権の確立も近代の指標として言及された。3点目は、交通・通信の発達である。大反乱とほぼ同時期にインドで初めて鉄道が開通し、風景を一変させたのである。

 

最後に、ベンガルにおける教育、ヒンドゥー教、出版、言語との関連で近世-近代の時代変遷が論じられた。教育に関しては、近世における宗教やカーストの枠を超えた初等教育の拡がりがあった一方で、東インド会社の支配は各社会集団間の流動化を阻止したという意味で反動的であったという。ヒンドゥー教については、キリスト教宣教師たちの批判に対応する形で近世の改革運動が現れたのち、近代におけるナショナリズムへの適応が起こったという変遷が述べられた。ベンガルにおける出版文化については、大反乱とほぼ同時期に起こった寡婦再婚運動との関連によって論じられた。寡婦再婚禁止を社会の「悪習」とみなし改革しようとするエリート(ボッドロロク)と、それを批判する中位・下位カーストの関係性は、両者をとりまく社会を視野にいれつつ風刺文学を読み解くことによって、より正確に理解できるという。従来近代の象徴とされてきた出版が、近世ベンガルにおける大衆文化を担っていたことも指摘され、近代において後景化された非エリートによる俗の文化への着眼を含んだベンガル史の再構成の必要性が示唆された。また、言語に関してはエリート知識人の身につける外国語が近世のペルシア語から近代の英語へと変わっていったことが挙げられた。

 

質疑応答では、「前景化」概念についての質問が寄せられ、その動力はイデオロギー的ではあるが、イデオロギーそのものではなく、人々が共通してもつ歴史の方向性であると説明された。

 

 

»「現代インド・南アジアセミナー」2013

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