【現代インド・南アジアセミナー 受講生による講義記録】講師:福味敦

現代インド・南アジアセミナー

講師氏名:福味敦「エコノメトリクスによるインド経済研究」
報告者氏名:杉江あい

エコノメトリクスの主流である新古典派経済学の研究作法と,インド経済研究の動向を紹介してくださった.一般的に,経済学者は,理論屋と実証屋に分かれ,数理経済学者を頂点とし,現地で実態調査を行う研究者を底辺とする階層化がみられるといった興味深い話に加え,先生も含めて経済学者が抱える悩みなども聞くことができた.

 

開発経済学,またはインド経済論を専攻するには,その地域に関する専門知識,ミクロ/マクロの経済学理論とともに,エコノメトリクスによる実証を行う能力を身につける必要がある.この3つの要素のうちのエコノメトリクスについて,使用するデータのタイプに対応する3つの分析方法,全数調査と標本調査の方法,回帰分析について説明された.特に回帰分析は仮説の検証によく使われる方法であり,専門外が多数の聴衆もその論理を踏まえた上で推計結果の表を理解できるように,どのような場合に統計的に有意と言えるのかなど,1つ1つ丁寧に解説された.

 

インド経済研究の動向としては,新しい政治経済学,人文・社会科学におけるボーダーレス化の2つが挙げられた.インド系経済学者がミクロ計量経済学を主導し,開発経済学の主流になっていることも述べられ,先生が行っている電力補助金の決定要因分析についても紹介された.政治・社会的要因への関心の高まりにより,従来にない要素を変数として含む新たな政治経済学については,具体的に政治的・社会的不安定性や宗教についてどのような要素を変数とするのか,また変数にできない要素もあるのかという質問が寄せられた.この質問は,エコノメトリクスの罠として挙げられた,第3の変数の存在,一般化において問題となるサンプリングの問題,内生性/逆因果のうちの1つめの点につながるものである.近年の研究では,特に3番目の点の克服が志向されている.さらに,これらの問題を乗り越える手法として,ランダム化比較試験が特にインドを舞台に行われている.

 

講義の最後には,エコノメトリクスの使用は留意点が多く,研究者の力量,さらにはモラルに依存するところも大きいこと,また質的な視点との折衷の重要性が指摘された上で,インド研究における学際的なコラボレーションの可能性が示唆された.

 

フロアからの質疑を列挙すると,具体的にどのようにコラボレーションすることができるのか,最近の研究で仮説を検証して目を奪われるような有意な数字が出たことはあるか,一般化できないものへの目配りはなされるのか,マルクス主義経済学との関係,インドにおける農村電化の実験現場での経験から政治学と経済学の関係について,また先生が実際に変数を設定するプロセスについてなど,様々な問題が投げかけられた.さらに,近年の研究の傾向として,理論が軽視され,データをいかに処理するのかということにエネルギーが費やされていることに対して批判がなされた.質問に対してはすぐに答えの出ないものもあったが,近年の研究動向とともに先生自身の研究,経験や考えを踏まえた回答をいただいた.

 

 

»「現代インド・南アジアセミナー」2013

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