【現代インド・南アジアセミナー 受講生による講義記録】講師:太田信宏

現代インド・南アジアセミナー

講師氏名:太田信宏「近世南インド論」(南アジア・マクロヒストリー講座8)
報告者氏名:加藤瑞紀(南山大学)

本講義では、歴史研究における「近世(early modern)」がどういった概念で、歴史研究の中でどのように語られているのかについて主に語られた。後半では、講師の専門である南インド史研究において、近世の時代ではどういったことが問題になっているのか、またこれからどういったことが問題になり得るのかについて論じられた。

 

ヨーロッパでの歴史研究では長い間、古代・中世・近代という伝統的時代区分が用いられていた。しかし、1960年代にアメリカで初めて「近世」という概念が用いられ、それを皮切りに世界史研究において「近世」という考え方が使われるようになった。これはそれまでのヨーロッパ中心の世界史ではなく、世界中の他の地域も見ていこうとする新しい世界史研究へとつながっていった。16世紀から18世紀の世界各地の歴史的展開にみられた「相似的現象(parallels)」つまり共通の特徴に着目し、このようなparallelsをそれぞれの地域史と世界史(World History)との間に見出すことで、地域史研究と世界史研究を結び付けられるようになった。

 

一方、2000年代に入ると歴史研究の中で「近世」に対する新しい見方がでてきた。それまでの「近世期を特徴付けているのは世界中の地域でみられる一揃いの具体的な特徴である」とする考え方に対し、「近世世界は密接に結びついているため、様々な方向に多様な影響を与え合っている。そのため、一定の共通性はみられるものの、全ての地域で必ずしも同じ結果をもたらしたわけではない」とする意見である。この考えによると、近世世界とはある出来事が全ての地域で一方向に向かうような単純な世界ではなく、もっと混乱した変化し続けるものであり、強力で相互に絡み合った双方向的な歴史的過程の集合によって形成された絶えず動き続けるものである。よって「近世性」を実態的な特質を指すものとして考えず、むしろ当時の世界の多くの地域が広域的変動の衝撃を受け、それに対応する新しい秩序のあり方をそれぞれ独自の方法で模索した、という動的過程そのものに着目していくべきだと考えられるようになっている。

 

南アジア史研究においても、従来の国史的内発発展史観を反省し、「外部」とのつながりにより配慮し、同時代の世界的な動きとの関連性、他地域の動きとの相似性に留意して南アジアの歴史を動態的に研究・叙述する必要があるという認識の共有が広まっていき、内容のズレと曖昧さを伴いつつも「近世」という概念は主に欧米において普及していった。しかし一方で、いまだインド国内においてはまだ従来の三時代区分が主流であり、「近世」という概念を受け入れない動きである。

 

さらに具体的な事例として南インド史の村落庸人制度について挙げている。南インド史研究では村落傭人制度は「古く」からの伝統的なもので、商品・貨幣経済の浸透、近代的所有権の確立によって崩壊するものという従来の考え方があった。しかしこれを「近世」的視点でとらえると、村落庸人制度だけでは実際には村落社会を動かすことはできなかっただろうと考えられるため、「近世」期のグローバル経済のもとで「世界各地の生産、配分、社会編成のパターン」は一律的ではなく、南インドにおいては現物・交換経済的な村落庸人制度と商品・貨幣経済は関係し合う独自の経済体系をしていたということを再検討すべきであろうと講師は考えている。

 

質疑応答では、植民地期の資料を使って研究することは結局欧米中心の地域史研究になってしまうのでは、といった指摘や質問が出た。

 

»「現代インド・南アジアセミナー」2012

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