【現代インド・南アジアセミナー 受講生研究発表】発表者:鹿毛理恵

現代インド・南アジアセミナー

氏名:鹿毛理恵(佐賀大学経済学部客員研究員)
発表タイトル:「国際労働移動の経済社会分析:スリランカ人女性家事労働者をめぐって」

労働力輸出政策が経済発展の一つの戦略として定着したスリランカにおける国際労働移動の経済的便益と社会的費用について検討した。報告では、アジアにおけるスリランカの位置づけを明らかにした後で本題に入った。本研究は、特に「家事労働」サービスを有償で提供する女性労働力に着目している。同課題を実証するために、二つの分析視角を採用した。一つは、国際機関、スリランカ政府や送出し機関などが公表する二次的データを用いてマクロレベルの分析を実施した。もう一つは、南部州ハンバントタ県のハンバントタ市およびアンバラントタ市に点在する村落に住む、家事労働者として主に中東湾岸諸国へ出稼ぎした経験を持つ女性500名から聞取りアンケート調査を行い、出稼ぎ経験や出稼ぎに関する意向だけでなく世帯の経済社会状況データを集め、ミクロレベルの分析を行った。

 

分析で明らかにしたことは次の通りである。人々に就労機会を与えることで失業率の軽減と収入手段獲得の機会を提供し、外資獲得手段として国家経済にプラスの効果をもたらしていることから、労働力輸出政策は高い経済的便益を生み出すとして評価できる。一方、聞き取り調査を実施した結果では、女性の家事労働者出稼ぎによる経済的便益は小さく、社会的費用が目立つことが明らかとなった。確かに海外出稼ぎを経験した女性の多くが、働いて報酬を得て貯蓄できる喜びや、快適な生活環境に身を置いて新しい体験ができたこと自体、良い思い出になったと回答した。また、蓄えた資金をもとに家のリフォーム、商店建設、耐久財の購入を実現させた女性も存在する。夫の失業や死亡により、生活に困窮していた女性も、出稼ぎによって子供たちの養育を可能にできたという効果も報告された。しかしながら、同時に故郷や家族と離れて暮らす精神的負担、職場での厳しい労働条件、雇用主とその家族との人間関係、同僚との人間関係、病気や事故、虐待、現地の派遣サービス会社との問題、脱走と刑罰などに直面したという女性が非常に多かった。さらに出稼ぎ前においても、海外就労の斡旋業者たちとの間で生じた金銭トラブルなども少なくなかった。家族と離れて働くことの精神的負担は、女性自身だけでなく、夫や子供たちにも大きく影響していたことも明らかとなった。

 

2000年頃から経済が緩やかに成長していることで、スリランカの一人当たりGDPは、中東諸国における女性家事労働者の平均賃金を上回るほどになった。女性家事労働者が受け取る賃金は国内インフレの影響とも重なり、もはや上述した非経済的な問題を相殺できるほどの高い経済的便益を期待できるものではなくなった。このことから、労働力輸出政策の見直しと改善を進めながら、より国内生産型の経済戦略を模索することが重要ではないだろうか。

 

 

»「現代インド・南アジアセミナー」2013

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