【現代インド・南アジアセミナー 受講生研究発表】発表者:油井美春

現代インド・南アジアセミナー

氏名:油井美春(神戸大学大学院国際文化学研究科)
発表タイトル:「インドにおけるコミュナル紛争予防―ムンバイー市の警察と地域による予防活動の分析―」

本発表は、ムンバイー市で1990年代に市警察と住民の協働によって創設されたモハーラ・コミッティの活動事例をつうじて、(1)インド国内のヒンドゥー・ムスリム間のコミュナル紛争を「予防」の視点から捉えなおし、(2)安全保障の理論枠組みと実証から、この紛争予防活動がどのように遂行されてきたのか、を明らかにすることであった。

まず、先行研究のレビューのなかで、原因追求型が多いと言及したが、なぜ先行研究では「予防」の観点がなかったのか、という点に注目したほうが良いとのご指摘を頂いた。

本発表では、非国家アクターと紛争というキーワードから、安全保障のなかでも、共有価値の概念を用いた構成主義的アプローチによる理論枠組みを設定したが、これに対して3点の質疑が交わされた。第一に、共有の価値としているが、それを可能としているコミュニケーションがどのようなものか、それを分析するべきではないのか。第二に、国際関係論のなかで発展してきた構成主義の理論を用いても、その理論が現れた背景を考慮していなければ、実証とは適合しないのではないか。第三に、価値を共有するとあるが、実際には異なった宗教コミュニティに属する人々をつなげる「ハブ」となるものを見ていくことが重要なのではないか。そうした個々の価値を認めた、より緩やかなネットワークが存在しているのではないか。今回ご指摘頂いた3点は、現在理論枠組みの試行段階にある本研究において、今後大いに有用なものであると感じた。

また実証部分に対しては、「地域」という言葉の設定範囲を明確にすべきという点、警察の住民に対するアプローチのあり方、本当にヒンドゥーとムスリムの関係が良好だと言えるのかという点、そしてモハーラ・コミッティの用いてきたシンボルマークに注目すべきというご意見を頂いた。現地での聞き取り調査を進めていると、予防活動が成功したという前提のもとに、実証研究を展開してしまいがちであった。しかし、こうしたご意見を頂き、組織活動に対して、より広い視角を持つ必要があることを実感した。
今回発表の機会を頂いたことにより、多様な研究背景を持つ方々から、多くのご意見ご助言をお寄せ頂いた。今後、本研究を深化させていく上で、非常に有用であり、貴重なものとなったと、改めて御礼申し上げます。

»「現代インド・南アジアセミナー」2010

パーマリンクをブックマーク

コメントは受け付けていません。