資料探訪コラム

資料探訪コラム 2018-02-15T15:47:10+00:00

第2回コラム

東大拠点「植民地史資料」にみる「インド省記録文書」

小川道大

史資料収集が歴史学の基本であることは繰り返し述べられてきたことであるが、「文献を収集して、それを分析する」という歴史学の定義に立ち戻るとき、史資料の収集が歴史学科を卒業した研究者のお仕事に留まらず、多くの研究者にとって必須の研究プロセスであることが改めて意識される。そして近年のオンラインのデジタル・アーカイブスの発展(コラム1参照)は、多くの人々に、当事者の記録である第1次史資料の収集を可能にし、史資料は共有される時代となった。しかしインド史に関していえば、デジタル化された文書は極一部で、未だに史資料の大部分がインドやイギリスの文書館に保管されている。文書館の非公開史資料を収集して分析することはやはり歴史家の責務となるが、このような歴史家の活動とインターネット上のデジタル・アーカイブの間にオフラインのアーカイブがあることは、広く意識されていないように思う。すなわち国内の大学図書館等の研究機関に保管された史資料群のことであり、ここにはネット上で公開されていない数多くの文書が含まれている。「南アジア地域研究」では、歴史をテーマの一つとする東京大学拠点がオフラインのアーカイブ形成を事業課題としてきた。本コラムでは、東京大学拠点が収集した「植民地期史資料」を紹介する。

東京大学拠点は、大英図書館のインド省史料室(India Office Records)の文書収集を行なった。同拠点の「植民地期史資料」のリストを見ると、全ての請求記号(Shelfmark)が”IOR”から始まっており、これは当該文書がインド省資料室に配架されていることを示している。インド省史料室は史資料の性質によって分類され、A-Zの記号で整理されている(表1参照)。4×40=160

A 東インド会社特許状、法令、条約 M ビルマ省記録
B 東インド会社取締役会・株主総会議事録 N 洗礼・婚姻・埋葬報告※1
C インド省の議事録・覚書 O 伝記シリーズ
D 東インド会社通信委員会文書 P インド政庁・管区議事録・覚書・決議案
E 東インド会社往復書簡 Q 委員会・協議会記録
F 東インド会社監督局記録 R 公的手続きによる移管文書
G 商館記録 S インド言語調査記録
H 本国送達の雑記録 T 該当なし
I インドの他ヨーロッパ勢力に関する記録 U 東洋諸言語文書※2
J ヘイリーベリー校記録 V 公刊公文書
K 他組織に関する記録 W, X, Y 地図

表1 「インド省記録」の下位分類
典拠:Martin Moir, A General Guide to the India Office Records, London: British Library, pp.129-130より著者作成。
※1:キリスト教関連 ※2:「東洋諸言語」部門は中国語・ペルシア語文書からなる。

「植民地期史資料」はL/P/V/Zシリーズの文書から成っており、ここではアルファベット分類ごとにその詳細を示していく。東大拠点が収集した「省(部局)記録」(Lシリーズ)の文書は、収税局などの「経済関連部局の記録」(L/E: Economic Department Records)および「議会局記録」L/Parl: Parliamentary Branch Records)の下位区分に属し、特に19世紀半ばの収税業務、20世紀初頭の工業を対象としている。「インド政庁・管区議事録・覚書・決議案」(Pシリーズ)は、東インド会社およびインド省統治下のインド政庁と各管区政府からロンドンへ送達された重要文書からなり、「インド省記録」の中でも大部の史料群である。東大拠点の「植民地期史資料」の中でもPシリーズからの史資料がVシリーズと並び多く収められいる。「植民地史資料」のPシリーズの全ては、マドラス管区政府がロンドンへ送達した文書であるが、その中で多く占めるReports on the External and Internal Commerce of Madrasは1802年から1864年まで記録された貿易統計であり、大英図書館で閲覧可能な文書をほぼ網羅的に収集したものである。マドラス管区内外の陸上・沿岸交易に関する統計・日誌からなる手書き文書である。印刷技術が発達する19世紀後半以前は報告書・記録の多くが手書き文書となる時代の特徴がここに反映されている。そして「植民地史資料」所収のZシリーズは、本史資料所蔵のPシリーズの詳細な目録となっている。

「植民地史資料」所収のVシリーズは、統計データ(V14)、報告書選(Selections from the Records: V23)、省・部局の年次報告書(V24)、委員会記録(V26)、各種モノグラフ(V27)からなる。統計データ(V14)は、物価統計、農業統計(Agricultural Statistics)、商業・産業統計などから成っており、マドラス管区の物価統計、1883-93年の最初期の農業統計のほか、商業・産業統計分野からは「英領インドの株式会社(V/14/207-233)」が1906-1953年におけるインドの株式会社の基礎情報(規模・本社所在地など)を網羅的に収めた報告書群で、民族運動期~独立期を支えたインド企業の状況を連続的に把握でき、「インドの銀行における統計表(V/14/236-246)」は同時期の銀行統計で地域分類がなされており、株式会社報告とある程度の連動を見出すことができる。報告書選は、インド政庁発行の/ベンガル管区等の地方政庁発行の報告書選(Selections from the Government of India/Bengal etc.)となっており、地税報告書(Settlement Reports)をはじめとして種々の報告書を収録している。「植民地史資料」には「マドラス管区発行の報告書」から2報告書が採録されている。ちなみにこの報告書選(V23)の主要な報告書はマイクロ・フィッシュ化されて、東京大学東洋文化研究所・一橋大学など国内の複数の大学図書館に所蔵されている(カタログJohn Sims ed., Selections from the records of the government of India 1849-1937, London: British Library, 1987.の国内所蔵館参照)。

省・部局の年次報告書(V24)はインド政庁や管区(州)が発行した種々の年次報告書群であるが、「植民地史資料」はマドラス管区とパンジャーブ州の公衆衛生報告書シリーズ(前者の全対象期間:1864-1948年・後者の全対象期間:1867-1946年)の中で、19世紀半ばと1920年から各々の最終収録年までの報告書を有している。これらの報告書を用いて、マドラス管区とパンジャーブ州の公衆衛生状況を人口との関わりで論じたのが、宇佐美好文「センサス期(1881~2011年)の人口変動」水島司・川島博之(編)『激動のインド2 環境と開発』(日本経済評論社、2014年)である。委員会記録(V26)は種々の報告・記録が含まれており、これを分類することは不可能であるから、各自リストを参照されたい。特徴的な報告書群を挙げるとすれば、「在インド・王立委員会の労働に関する報告書(V/26/670)」、1944年時および1901年時の「飢饉調査委員会報告(V/26/830)」19世紀末の「インド教育委員会報告(V/26/860)」は当該分野を研究する上で必須の報告書である。各種モノグラフ(V27)も様々な報告・記録からなっているが、「植民地史資料」には「バラマハール記録」を中心に15点が収められている。バラマハールはマドラスのライヤットワーリー制度導入の準備調査を行なった地域であり、詳細な記録が残されている。英領期初期のインドの状況を把握する貴重な史料である。

東大拠点が収集対象とした「インド省記録文書」はインドの諸文書館・在地私文書ほどの詳細さに欠けるが、どれもインド史研究における重要な基本史資料である。ここで紹介した「植民地史資料」は広く公開される状態にないが、本リストの紹介を通じて「インド省記録文書」の多様性および有用性の一端が伝われば幸いである。

No. 作者 タイトル 作成年 PDF
1 脇村孝平 史料へのアクセスから見たインド史研究の今昔 2017.07

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