講師氏名:山根聡「アジア・イスラーム論-政治・社会運動の宗教的正当化をめぐって」
報告者氏名: 松田和憲(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
本講義では、南アジアのムスリムたちが政治・社会運動を展開するさい、彼らがどのようにイスラームを位置づけたかに関して焦点が当てられていた。1857年のインド大反乱以降、ムスリムによる政治・社会運動が活発化していく中で、南アジアのムスリムたちの間に「ムスリム」としての自覚が芽生え始めた。その過程において、教育や文学の言語として、それまで使用されていたペルシア語からより多くの大衆が理解できるウルドゥー語が用いられるようになった。「ウルドゥー・ジャーナリズムの父」のザファル・アリー・ハーン(Z̤afar ‘Alī Khān, 1873-1956)やイスラーム思想家のマウドゥーディー(Saiyid Abū al-A‘lā Maudūdī, 1903-1979)は自らの思想をウルドゥー語で記すとともに、南アジアをこえてイスラーム世界全体にアラビア語や英語で発信した。インド・パキスタン分離独立後、軍・宗教勢力・急進派がイスラームを支えていく勢力となった。ズィアーウル・ハクの時代に実施された石打刑や冒涜法といったイスラーム化政策が、イスラームを掲げたテロに対してパキスタン社会が非難しにくくなる状況を作り出した。しかし、2014年末におこったペシャワールのテロによって軍部と急進派が決別し、パキスタンにおけるイスラームのあり方が変容した。