氏名:油井 美春(広島大学現代インド研究センター・研究員)
発表タイトル:「暴力と予防―インドの「暴動州」における比較分析―」
本報告の目的は、インドでヒンドゥー・ムスリム間暴動が頻発してきたマハーラーシュトラ州およびグジャラート州の予防活動を比較分析し、予防の精査を提起することであった。犯罪研究と暴動研究を接合して、ヒンドゥー・ムスリム間暴動サイクルと予防としてのコミュニティ・ポリシング活動のモデルを導出した。その上で、2度の大規模暴動が発生したマハーラーシュトラ州ムンバイーで1993年から遂行されてきたコミュニティ・ポリシング活動の予防について、現地調査で得られた知見に基づいて検討した。他方、グジャラート州では2002年に発生した大規模暴動の後に、モーディー州首相が主導して、テロ対策予防法を根拠に121人のムスリム指導者を逮捕した。これら2州の比較から、予防という名目で特定コミュニティへの取り締まりに選択的に濫用される恐れがあることを明らかにした。本報告の質疑では、コミュニティ・ポリシング活動と暴動との因果関係、州政府によるコミュニティ・ポリシング活動への介入の有無、ムスリム人口と暴動発生の連動、多様な住民参画による治安回復の状況、ヒンドゥー・ムスリムの住民間の社会関係、暴動についてのムスリム向けのメディアの報じ方など、多くの示唆に富んだ重要なご質問を頂いた。今後は州間比較研究をつうじ、インドにおける予防活動の効果および影響について、議論を深めたい。