氏名:田中鉄也(日本学術振興会特別研究員)
発表タイトル:「現代インドの公益信託によるヒンドゥー寺院経営-ラーニー・サティー寺院を事例-」
本発表の主たる目的は、ラージャスターン州のラーニー・サティー寺院を事例に、公益信託によるヒンドゥー寺院経営の特徴を詳らかにすることであった。アグラワールに帰属するジャーラーンという親族組織の極めて「私的」な女神は、カルカッタに移住してきたマールワーリー・ジャーラーンが1920年代に自らの財産を「公的なもの」へと読み変える過程で、寺院に鎮座する女神へと姿を変えた。1957年に公益信託を組織し、それまで祠を管理してきた司祭からこの寺院の占有権を勝ち取ることによって、受託者たちはカルカッタを拠点とした寺院の遠隔地経営を確立した。彼らの寺院経営は特定のコミュニティに限定した共助的活動に終始しているように見える。しかしそれは公益信託という制度的利点を熟知した上で行われた現代インド的な「公益活動」と解釈できる。彼らは自らの活動が受託者に(血縁や地縁などの意味で)直接的に関わりのある範囲に限定された「私的なもの」でないことを証明するために、活動の恩恵を得る対象を具体的な大きさをもったコミュニティとして策定することで、彼らなりの「公益活動」を実現してきたのである。発表後には、中村尚司先生を始め参加者の方々から有益なコメントを頂いた。代表的には、現在の寺院経営と王権論を比する是非、地域的に特殊なラーニー・サティー寺院経営を一般化する是非、経営や公益信託などの用語使用の適切さ、等が挙げられる。