氏名:水澤純人(京都大学)
発表タイトル:「英領インド・パンジャーブにおけるムスリム市民社会の形成-イスラーム擁護協会の事例から-」
本発表は、ムスリム市民団体であるイスラーム擁護協会(以下、擁護協会)の活動を、設立初期(1880年代)の機関誌の分析に基づき検証した。具体的には、中間層と民衆の関係、宗教改革とコミュニティ改革の関係、女子教育推進の動機に着目した。まずパンジャーブにおけるムスリムの位置づけと教育の特徴を確認したうえで、本報告は擁護協会を、ムスリム中間層主体の、基礎教育と女子教育を重視する団体と位置づけた。さらに機関誌の分析により、擁護協会が、集会の開催や機関誌の発行を通じ情報の共有・公開を行ったこと、キリスト教宣教師の活動が女子教育への関心を喚起したこと、そして、男子学校は他学校から転入する生徒の受け皿となっていたことを提示した。最後に、中間層の民衆への接近がみられたこと、キリスト教宣教師の活動がムスリムを団結に向かわせたこと、そして女性によるモノの寄付が活動に貢献していたことの三点を言及した。質疑では、植民地期パンジャーブの状況(地政学的状況、郵便を通した情報伝達の発達、移民の送り出し)、擁護協会の活動(協力者である知識人の考えの変遷、本部と支部の関係)、博士論文の構成、統計データの活用など今後の研究に資する様々な助言と指摘を頂いた。これらを踏まえて、今後、更なる研究の発展につなげていきたい。