【現代インド・南アジアセミナー 受講生による講義記録】講師:藤田幸一
講師氏名:藤田幸一「カンガー下流域、ビハール、西ベンガル、バングラデシュの農業・農村発展 ―環境、技術、制度・政策、農村社会構造の相互作用―」 報告者氏名: 渡部春奈(一橋大学大学院社会学研究科) 本報告では、ビハール、西ベンガル、バングラデシュの農業発展の背景にあった環境、技術、制度・政策や農業社会構造が明らかにされ、さらに日本との比較を通して、インド農業の今後が説明された。宗教学については、主観的な宗教観と客観的な宗教観は永遠に交わらないのかという問いから、語る者と語られる者、ファクトとフィクションに関する不可分な繋がりが論じられたほか、リアリティはファクトと同じではないという指摘もなされた。オリエンタリズムについては、見るものと見られるもの、宗教と世俗、「二つのインド像」などを例に、一見相反するものにおける関連性への注目が重要視された。70年代末頃まで東部インド農業が停滞していた中で、バングラデシュは人口圧力増大による「仕方なし」の技術変化が起こり、地形を利用した稲作が拡大した。西ベンガルの稲作増産は80年代以降の水資源制約の克服と、生態環境条件に適合した改良品種の開発、普及後である。ビハールでは水価格の高さや特殊な管井戸技術によって小麦のみが増産していた。これは、管井戸の投資主体が相対的な貧困層であるため、という仮説が提起された。日本との比較では、南アジアの土地貸借市場の未発達と刈分け小作制度という農業構造が非効率を招いているとし、下位カーストへの土地アクセスの阻止や、牛の貸借市場の未発達がその背景にあるとした。最後に、近年加速している農業離れの現状を指摘し、今後のインド農業は土地貸借市場の発展と、SCの自営農業への参入が鍵となるという点が示された。質疑応答では、穀物生産量と家畜飼料の関係性や、農業の保護と補助の違いなどについて議論された。 「現代インド・南アジアセミナー」2015